福島第一原子力発電所事故の経緯と現状

京都大学原子炉実験所
中島 健

 3月11日に発生した東日本大震災はM9.0という巨大な地震とその後の津波により、多くの犠牲者・行方不明者を出しました。東京電力福島第一原子力発電所では、運転中であった1号機から3号機の3基の原子炉は全て停止しましたが、津波により非常電源を含む電源機能を失ってしまい、この3基の原子炉及び1号機から4号機の4基の使用済燃料プールにおける冷却機能を喪失しました。

 原子炉の核分裂反応は停止したのですが、燃料内に蓄積されたウランの燃えかすである核分裂片が崩壊熱という熱を出し続けているため、冷却機能が失われると短時間で炉心内の水は蒸発、減少します。やがて燃料は高温となり、損傷してしまいます。また、高温となった燃料の被覆管(さや管)は水蒸気と反応し、大量の水素が発生します。この結果、1号機、3号機、4号機では水素爆発により原子炉建屋が破損、2号機では格納容器が破損し、大量の放射性物質を環境に放出するという最悪の事態を招きました。そして、広範囲の地域において、多くの住民が避難・退避を強いられているとともに、飲用水や農作物、海水等の放射性物質による汚染が生じています。この事故は国際原子力事象評価尺度(INES)において、1986年に旧ソ連で発生したチェルノブイリ原発事故と同じレベル7(深刻な事故)と評価されています。

 地震発生から約3ヵ月が経過した現時点でも、燃料を安定に冷却することができず、また炉心の冷却に使用した水が汚染水として大量に蓄積しており、現場では事態収束のための懸命の作業が行われています。

 本講演では、以下に示す流れで、この東京電力福島第一原子力発電所の事故の概要を述べるとともに、事故原因の背景となった安全審査や原子力防災の現状について考えてみることとします。

   ・原子力発電の仕組み
   ・東京電力福島第一発電所の事故
   ・原子炉の安全審査
   ・原子力防災