放射線の人体への影響

放射線医学総合研究所
廃棄物技術開発研究チーム
田上恵子

 今年3月11日の東日本大震災により、東京電力福島第一原子力発電所では主に大津波による甚大な被害を受け、一度に4つの原子炉がトラブルに陥るという未曾有の事態に陥りました。事態は少しずつ改善されつつあり、今後、環境中への放射性物質の大きな放出はないものと期待されているところですが、すでに震災直後の3月中旬には大量の放射性物質が環境中に放出され、いろいろなところで放射性物質による汚染の報告がなされました。これにより多くの人達が、急に人への放射線の影響に注目するようになりました。日本では、広島や長崎の原爆により被ばくされた方々を調査し、放射線の人への影響研究が詳細に行われてきています。これらのデータを元に、今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射線の影響について専門家達が意見を述べているところですが、特に実効線量100 mSv以下の低線量領域では、人体に対する放射線の影響のしかたが科学的・統計的に明らかでないことから、意見が分かれているようです。

 筆者の専門分野は環境放射能研究であり、放射線の人体への影響の研究を直接行っているわけではありません。しかし、環境中の放射線の分布や放射性核種の動きを知ることは、それによる人体への影響がどの程度であるのかを推定するために重要なファクターです。そして、我々の日常生活における安全・安心のためには、今の身の回りの放射線とその人体への影響について知ることはとても重要です。そこで本講演では、「放射線の人への影響のしかた」に関する基本情報と、「受けた放射線による線量の計算方法:内部被ばくと外部被ばく」について触れ、おおよその値を出す方法についてお知らせし、さらには広く陸上環境中に放出されている「放射性セシウムの環境中での挙動」について、その概略を解説します。