放射能と放射線の基礎知識

日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター
永目諭一郎

 1911年、ちょうど今から100年前、キュリー夫人がノーベル化学賞を受賞しました。受賞理由は「ラジウム(Ra)とポロニウム(Po)の発見と、ラジウムの性質およびその化合物の研究において、化学に特筆すべき功績をあげたこと」となっており、新元素発見を取り上げて評価されました。そのキュリー夫人の功績を称えて、100年後の今年2011年を「世界化学年」とすることが2008年の国際連合総会で採択されました。放射化学という新しい学問は、キュリー夫人の研究から始まりました。

 新元素の発見のみならずラジオアイソトープや放射線の利用は、キュリー夫人の重要な研究テーマです。現代社会において、ラジオアイソトープや放射線は、医学・薬学、農学などの生命科学や材料科学、環境科学、原子力科学あるいは産業利用など、人々の命や暮らしに直結するツールとなっています。

 奇しくもこの世界化学年(放射化学100年)の年に、我が国は東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故という未曾有の大惨事を経験することになってしまいました。この原発事故は、日本の人々に大地震、大津波という災害の上にさらなる苦しみをもたらし、世界の人々をも不安にさらすことになりました。

 本講演では、テレビや新聞等で報道される「放射線」や「放射能」を正しく理解するための基礎知識と、原子力発電に使われるウランの核分裂反応について解説いたします。